75.

槍槍家嫌々について

 

今日は特に嫌なことも上司とのだるいやりとりもなく、日記を書いて消化させたい煩わしいことがほとんどなかった。

 

なので、人物評の練習をするために、自分が落研で出会った人間を1人ピックアップして書いてみたい。

 

第一回 槍槍家嫌々 編

 

第一回目(一応)は特に理由もないが、槍槍家嫌々について書こう。

 

槍槍家嫌々は法政落研で同期だった男だ。

実は自分とは入部した日が全く一緒で、期間だけで言ったら大学時代、一番長く一緒にいた人間かもしれない。初めて会話をしたのは自分が落研の部室のドアを最初に開けた日。誰が先輩かも分からないので、なんとなくその場にいる人全員に向けて自己紹介をしたところ妙に馴染んだ面構えで拍手して出迎えてきた。後から聞いたら「自分も30分程前に入部した」という。

 

「奇妙な人だな」というのが初めて抱いた奴への印象だ。

 

ただ、そんな出会いもさておき、槍槍家嫌々とはすぐに仲良くなった。という美談は一切ない。「なんとなくヘラヘラしている人だな」という印象が加わっただけで2年が過ぎた。

 好きとか嫌いとかではなく、ただただお互い、顔を合わす機会がなかった。自分は特に落研での活動が面白いと思えず、槍槍家嫌々は塾講師のアルバイトで忙しかった。

 

仲良くなり始めたのは3年生になってからだろう。2人とも教職課程を専攻していたので他学部なのに授業が被ることが多くなった。教職課程の授業は4限や5限などの遅い時間に始まるので、それまでよく部室で暇を潰していた。

 

最初の内はなんとなく間を詰めるために話をしていた感は否めない。ただ、いざ話をしてみると、一応、2年間一緒のサークルにいたとは思えない、知らなかった話がドバドバでてきた。

 

実は天文サークルとの兼部であるということ・1浪していること・台湾とのクォーターであるということ・この前の春休みにモンゴル旅行に行っていたこと・バイト先の塾が先生をあだ名で呼ぶ方針で、生徒からは本名を文字って「ゆう」と呼ばれていること・その時点で300回近くあったオードリーのANNを既に2周して聴いていること・高校の陸上部の走り幅跳びの練習で着地した後、両手を天にかざす「ショーシャンクの空にごっこ」をして友達と楽しんでいたこと・地元の公園でスケボーをしていること、ツチヤタカユキのnoteを課金して読んでいること、などなどそれ以外にも挙げだしたらキリがない。

 

その話を聞くたびに思った。

 

「なんて奇妙な人だ」と。

 

彼は言いたくならない。

普通の人だったら真っ先に誰かに言いたくなるような変わった話を、彼は誰とも共有せずに1人で心に留めて楽しむことができるのだ。

 

そして、奴がいつもヘラヘラしている理由もそこでなんとなく分かった。

 

奴は「人生を楽しむ才能」がこれまで自分が出会った人間の中でもズバ抜けている。他人に共感してもらわなくても自分が楽しかったらそれはそれで良いので、周りの目も気にならない。生活のなかで起こる様々な出来事を(謎の)懐の深さで消化しながら無意識の内に楽しい方向に変えて生きいける。

 

だから、訳の分からない落語をやって、嫌な大人のおもちゃにされて急にプロの高座の前座をやれと言われても別にどうだっていい。心底、そいつらに興味がないし、自分が面白いと思うことをやれるんだから。

 

そこに気がついたら、もう槍々家嫌々の虜だ。

「今まで知り合った人のなかで誰のような人間になりたいか?」と聞かれたら、槍々家嫌々は間違いなく候補の1人には入る。行けたら行くというスタンスが誰よりも似合う。あの他人への関心の薄さと、人生を楽しむ才能には、一歩間違えればとんでもない不良にもなりかねない素養すら感じられる。

 

就職活動の時、奴は初任給と福利厚生だけを見て就職先を選んでいた。他の人から見ればそれはおかしなことかもしれない。でも、槍々家嫌々にとってそれは至極真っ当なことだ。何もおかしなことはない。槍々家嫌々が良いと言ったらそれが槍々家嫌々の正解なのである。

 

ちなみに、卒業してから槍々家嫌々にはほぼほぼ一回も会っていない。どうせ何年経っても良い意味で槍々家嫌々は槍々家嫌々のままだ。絶対に。そう考えると会うのはいつでも良いと思う。

 

 

 

長かった。

なぜ、槍々家嫌々でこんなに時間と頭を使わなければならないのだ。

もう二度としない。